No.57 ドクダミ(十薬)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦
路地裏に咲くドクダミの花
路地裏に咲くドクダミの花

 ドクダミは、有用な民間薬として知られている。この毒草のような名前の由来を牧野博士は、「毒痛み」からきていると解説しておられる。しかし、それでは単なるごろあわせみたいなもので、今ひとつ説得力に欠けているような気がしてならない。それよりも、この草の葉を火で炙り、それを腫物の上に貼って毒を抜いた体験から、「毒を矯める」の省略形とするほうが妥当と思っている。
 いずれにしても、ドクダミはいろいろな薬効があり、それが10種の薬に相当するということで、十薬(じゅうやく)と呼ばれている。漢方の専門書を繙いても、ドクダミの全草を乾燥したものを十薬または?菜(しゅうさい)と称し、解熱、解毒、排膿、利尿などの作用があり、切り傷、腫物、痔疾、皮膚病、夜尿症、尿道炎、便秘、食欲不振、回虫駆除などに効果があって、用途は極めて広いと書いてある。ドクダミ茶を健康食品として愛用する人も多い。

 ドクダミは、わが国の本州、四国、九州及び中国大陸に分布するドクダミ科の多年草。湿り気のある場所ならどこにでも生え最も見慣れた雑草の一つである。全草に悪臭があり、白く柔らかな地下茎が横走して大きな群落を作る。
 背丈は30~50cmの高さに伸び、赤味を帯びた暗緑色の葉が互生につく。葉身はハート形、葉柄に托葉があり、下部を鞘状になって包む。
梅雨の頃、葉腋から枝を出し、その先端に花序を作る。ドクダミの花は裸花といって花弁や萼片はなく、雄しべ3本と雌しべ1本だけから成り、これが穂のように密生する。花序の下方に付く白い花弁のようなものは、総苞片※で通常、4枚が十字形に並ぶ。
 俳句では、「どくだみ」または「十薬の花」が夏の季語。俳人の多くは、総苞片を花と見誤り、次のように詠っている。

日おもてに毒だみの花十文字前田 晋羅
どくだみの花の白さに夜風あり高橋 淡路女
午後の日に十薬花を向けにけり星野 立子

 ドクダミは、小粋な姿をした草本である。梅雨時の薄暗い庭に群がって咲く白十字の総苞は、明かりを点したようにも見え、趣がある。

どくだみや真昼の闇に白十字川端 茅舎

 ドクダミが生えている場所に足を踏み入れると、一種独特な臭気が漂ってくる。デカノイルアセトアルデヒドという成分で、抗菌性はあるらしいが、このにおいはかなり強烈である。

十薬の香の夕暮れを?(かが)みゐる阿部 みどり女
十薬を抜きすてし香につきあたる中村 汀女

 作者は、ともに明治生まれの、戦中・戦後の俳壇で活躍された女流の第一人者。臭気という直截的な表現を避け、しおらしく香りとして捉え、風情のある句にしている。なお、みどり女さんは、昭和7年から仙台市に在住され、句集「駒草」を主宰しながら昭和の末期まで、句作に精進された方である。
ドクダミの臭気は熱を加えるとその臭みは完全になくなる。中国ではどくダミを?菜と呼ぶように、昔から茎葉や地下茎を熱湯で茹でて食用にしている。わが国でも、これを食べている人がいるようで、特にてんぷらにすると美味しいとの事。
 ドクダミがいったん庭に根を下ろすと、地下茎は分枝して四方に伸び、盛んに繁殖する。この旺盛な繁殖を抑えるため、地下茎を抜こうとしても、その地下茎は非常に脆く、すぐ分断して残った根から再び新芽を出して、再び増殖する。抜いても抜いてもまた生え続ける極めて厄介な雑草なのである。

十薬の根絶ち難し絶たんとす和田 博雄

増えすぎたどくダミ退治に手を焼いている句。

さからはず十薬をさへ茂らしむ富安 風生

ドクダミの根絶やしをあきらめ、伸びるにまかせた達観の句と思われる。

※総苞片:花序を包む多数の鱗片状の葉を総苞、個々の鱗片葉を総苞片という。

明かりを点す白十字
明かりを点す白十字
[写真は仙台市青葉区八幡町にて 山本撮影]
2010年7月7日