国道48号に面した大崎八幡宮の鳥居をくぐると、参道は階段となる。急な石段が長く続き、その両側にサカキの植込みがある。宮城県には自生しないので、暖かい地方から持ち込んだ植栽木であろうが、それにしても生育は旺盛で、長く伸びた枝葉は参道に覆いかぶさっている。
サカキ(Cleyera japonica)は、関東以西の照葉樹林帯に生えるツバキ科の常緑小高木。大きいものは、胸高直径30cm、樹高は10mに達する。若枝は葉と同様に濃緑色。葉はこの枝に互生して着き、葉身は長楕円形で先端はとがる。厚っぽい革質で表面に光沢があり、全縁(葉の縁にギザギザがない)である。
サカキの枝葉は昔から神棚に飾られ、また玉串として神前に供えられる。神社で舞う巫女の幣束(へいそく)にも用いられる。神社の境内によく植えられているのは、神事のセレモニーにいつでも調達できるようにするためと思われる。このように神道とは切っても切れない縁のある木であることから、神と木を合わせて榊という字が作られた。なお、榊の字が出る前の古事記や万葉集などの古書では賢木の字が使われている。
平安時代の神楽歌に
の歌がある。なんどか霜に当たっても枯れないサカキの葉を手に持ち、神を招くために巫女が懸命に舞っている様子をうたったものである。
同じ平安期の書、源氏物語の賢(さか)木(き)の巻には「榊葉の香りをなつかしみ」と出ている。しかし榊の葉に香りは全くないので、著者の紫式部はおそらくシキミの葉と間違えたのではないかと思われる。
サカキの花は7月に咲く。若枝の葉腋に1~3個の花柄を伸ばし、その先に芳香のある小さな白い花を下向きに着ける。この花は後に黄色に変化し、秋には直径5mmぐらいの球果となり黒熟する。
俳句では「花榊」や「榊の花」が仲夏の季語。この世界でも神社や巫女を組み合わせた句が多い。
タラヨウにはエカキバという俗名がある。この木の分厚い大きな葉に、蝋燭などの火を近づけて炙ると黒変する。紙のない時代には、その黒い部分に佛教の文字を書き記したのが由来である。また、奈良朝時代にはタラヨウの黒変する模様で占いをしていたようである。
立ちよりし結の社や花榊 松尾 いはほ
みくじ結ふ榊の花の白ければ 鈴木 三都夫
サカキは前にも述べたように神社の木というイメージが強く、一般の庭園にはあまり利用されていない。しかし、次のような句もある。
作者のみどり女は、大正期女流俳人の草分的存在で、戦後は仙台を活動の舞台に雑誌「駒草」を主宰された方である。
ところで仙台市内の生花店やスーパーなどの神事用売場で見られるサカキは、ほとんど例外なくヒサカキである。仙台に限らず東日本では、ヒサカキを本物のサカキと信じている人は極めて多い。ヒサカキも同じツバキ科の常緑小高木であるが、両性花のサカキと異り、雌雄異株(雌株と雄株がある)である。またヒサカキの葉の縁には、鋸歯(ギザギザ)があって簡単に見分けがつく。県内では、沿岸部のマツ林やタブノキ林の林床に普通に見られる。ヒサカキは、非サカキでサカキのマサカキに対してつけられた名である。