No.16 マンサク (金縷梅)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦
春を告げるマンサクの花
春を告げるマンサクの花

 今年は記録的な暖冬といわれるが、先日仙台市郊外の住宅団地でウグイスの鳴き声を聴いた。仙台管区気象台の統計によると、ウグイスの初鳴日の平年値は3月16日となっている。ウグイスは春告鳥といわれるので、今年は1ヶ月以上も早く春が到来したことになる。同じように、マンサクの開花情報も各地から届いている。日差しは確かに強まっているものの、冷たい風の吹き付ける枯れ野に、けなげにも咲くマンサクの花は、さしずめ春告花と称するにふさわしい。
 マンサクの語源には、色々な説がある。百花に先がけて咲くので「まず咲く」、花が枝一杯に咲くから「満っ咲く」、早春の開花が多ければその年は「豊年満作」等々である。

今では珍しいフクジュソウの花
今では珍しいフクジュソウの花

 話は変わるが早春、林縁や土手の日だまりに黄色い花を咲かせるフクジュソウを、東北地方の一部では「まんさぐ」や「つちまんさぐ」と呼んでいる。このキンポウゲ科のフクジュソウに春告花の異名があり、木本のマンサクと同様にその開花の知らせは、春の訪れを待ちわびる北国の人たちにとって明るい朗報となる。

 マンサク(Hamamelis japonica)は漢字で金縷梅と書く。縷(る)とは細い紐のようなもので、植物学の古い辞典に「金縷梅は蝋梅に似て、弁は縷の如し、春日開くとき翻々として舞はんと欲す」とある。つまりマンサクはロウバイ*1に似るが、春に咲く花弁は紐のようにちぢれて舞っているという意である。マンサクの花は、葉の出る前に短枝の上に房状に開き、黄色の花弁は4片にちぢれ、まるでリボンのように見える。

まんさくに滝の眠りのさめにけり加藤(かとう) 楸邨(しゅうそん)

 マンサクの開花は、概ね日中の平均気温が5℃に達してからである。これくらいの温度になると、里山の生物は活動を開始し、氷に閉ざされていた渓流の滝も音を立てて流れ出す。マンサクの開花に滝の目覚めを組み合わせた楸邨先生ならではの名句である。次の2句も里山の自然が動き出す早春の情景を詠んだ句と思われる。

まんさくに水激しくて村しづか飯田 龍太
まんさくに月のぼりけり水の音渡辺 温峰
リボンのようなマンサクの花
リボンのようなマンサクの花

 マンサクはマンサク科の落葉小高木で、北海道の渡島半島以南の本州、四国、九州に分布する。宮城県では里山地帯からブナ帯下部にかけてごく普通に自生しており、分布域は広い。花の少ない時期に開花するので、庭木としても植えられる。野生種は、八幡町周辺でも少し足を伸ばせば国見や三居沢あたりの雑木林でたやすく見つけることができる。

まんさくの淡さ雪嶺にかざし見て阿部 みどり女

 戦中から昭和50年台のなか頃まで、仙台市を俳句製作の拠点として活躍されたみどり女の作。おそらくマンサクの黄色い花の間から遠くに白く輝く泉ヶ岳の雪嶺をかざし見た句と思われる。

 マンサクは主に葉の形態の違いによって、関東南部以西に分布する標準型のマンサク、関東北部から岩手県までの太平洋側に自生するオオバマンサク、北海道南部から鳥取県までの日本海側に見られるマルバマンサクの3種に分類される。しかし、これら3種の間には連続性があり、それぞれの中間種もあって識別が困難な場合が多く、そのため単にマンサクと統一して取り扱っている。
 マンサクの花は、のちにツボ型の蒴果(さくか)*2となり、内部に2個の黒い大麦ほどの種子を成熟させる。これが秋のある日、小音を発して裂け、そのはずみで種子を遠方に飛ばす。この子孫繁栄の方法を植物生態学では機械繁殖といっている。

*1 ロウバイ:ロイバイ科の落葉低木。中国原産で17世紀のはじめ朝鮮経由で渡来した。早春、マンサクに似た蝋(ろう)黄色(おうしょく)の花を枝一杯に咲かせる。花弁は狭長形だが、ちぢれてはいない。
*2 蒴果(さくか):果実の形式の1つで、熟すと乾燥して裂け、種子を飛ばす。
[写真は国見4丁目の雑木林にて山本撮影]
2009年5月15日
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