No.30 タンポポ(蒲公英)
(株) 宮城環境保全研究所  大柳雄彦
セイヨウタンポポの花
セイヨウタンポポの花

 仙台管区気象台によると、今年のソメイヨシノの開花日は4月5日で、平年より7日早いとのことである。気象庁では、気温や降水量など毎日行う気象観測のほかに、植物の開花や紅葉の開始、動物の初見や初鳴きなど、季節の指標となる現象を地域ごとに観測していて、これを生物季節観測と称している。この観測には、必ず実施する規定種目と必要に応じて行う選択種目とがあり、植物の規定種目では、さくらなど12種目が定められていて、タンポポも含まれる。

 タンポポはキク科タンポポ属の総称のことで、その仲間は帰化種を含めると我が国には約20種自生する。これらのうち高山性の数種を除けば、大半は都市部や農村の集落など、開発の進んでいる人間の居住環境の周辺に多く分布する。陽のあたる場所を好み、森林の内部には極めて少ないので、典型的な陽性の植物である。

エゾタンポポの花
エゾタンポポの花

 タンポポは春になると、地面に広げたロゼット葉から花茎を伸ばし、その先端に一輪の花を咲かせる。この花は200個内外の舌状花弁を持つ小花の集合体で、頭状花と呼ばれる。この花が数日間、開いたり閉じたりしたあと萎れて花茎は横に倒れる。しかし小花の内部の種子が成熟すると再び立ち上がり、花期の頃より更に高く伸びて、球形のいわゆるタンポポとなり、風力によって種子を遠くへ散布する。
 ところで、タンポポの開花日とは気象庁の指針によると、頭状花の中の小花が数個開いた状態の日と定めている。また、観測対象となる種類は地域ごとに決まっていて、北日本ではエゾタンポポ(Taraxacum hondoense)、関東ではカントウタンポポ、関西ではカンサイタンポポなどとなっている。因みに、仙台市でのエゾタンポポの平年の開花日は4月20日であるが、最近は早まり、3月下旬に開花することもある。

 仙台市の周辺で普通に見られる種類は、エゾタンポポとセイヨウタンポポ(Taraxacum officinale)。後者はもちろんヨーロッパ原産の外来種で、札幌農学校創設当時、招聘した外国人教師が野菜用サラダを栽培するため持ち込んだものである。春しか咲かないエゾタンポポと違い、年中花を咲かせ、しかも受精の必要のない単為生殖をするので、今では全国的に繁茂している。
 タンポポは通常、漢字で蒲公英と書く。だがもともと蒲公英は漢方の生薬名で、タンポポの太い根を乾燥させたものをいう。タンポポ属の全部が日本準薬局方に指定されていて健胃、解熱、催乳などに用いられる。
 タンポポという名は、日本の言葉としては異質なひびきを持つので外来語と考える人もいる。牧野博士もその一人で、タンポはフランス語のtampon(砲口の栓)のことで、布で綿などを包んで丸くしたものをいい、それをタンポポの果穂に見立ててタンポ穂になったとしている。槍の稽古に使うタンポ槍も同じ由来らしい。一方、大槻文彦博士は、著書の「大言海」でタンポポの古名はタナ(田菜)、それが転じてタンとなり、ホホは「ほほけし」(ヤナギの花穂のような)状態と述べている。いずれにしてもタンポポの語源はその果実穂に由来するようである。なお、英語名はdandelionで鋸状に切れ込む葉の形をライオンの歯に見立てている。

 タンポポはごく身近で見られる春の花であるが、万葉集をはじめ古代、中世の歌集には全く詠まれていない。初めてこの名が現れるのは、近世の天明年間(18世紀末)のことで、一茶などが俳句に題材として使っている。このことは、既に述べているように文明の発展とともにタンポポも多くなってきたと思われる。

田にし鳴く畦にたんぽぽ打ちほけぬ暁台
たんぽぽに飛びくらしたる小川かな一茶
たんぽぽのサラダの話野の話素十
蒲公英や日はいつまでも大空に汀女
           
セイヨウタンポポ エゾタンポポ
セイヨウタンポポ エゾタンポポ
頭状花の基部につく総包の外片が反り返る。 総包は反り返えらない。
[写真は青葉区国見にて 山本撮影]
2009年5月15日